「アートをまとう七五三」前編—— 自由な感性と、子どもらしさを解き放つ着物づくり

大切な七五三の日が、子どもたちにとって「楽しかったね」と思える記憶になりますように。 

クッポグラフィーでは、子どもたちが楽しく自然体でいられることを大切に、衣装や空間づくり、撮影スタイルまで丁寧に整えています。 

なかでも象徴的なのが、毎年アーティストとともに手がけるオリジナルの着物。2025年は、コラージュアーティスト・井上陽子さんとの2度目のコラボレーションが実現しました。 

自由な感性をそのままに、ありのままの“その子らしさ”をそっと引き出すような一着を届けたい。 

そんな思いのもと、着物づくりの背景にはどんな物語があったのか。 今回は、衣装監修を担当した星との対談を通して、制作の舞台裏をお届けします。 

井上 陽子(いのうえ ようこ)さん 

コラージュアーティスト。異なる素材を組み合わせて作品を構成するコラージュ技法を中心に表現を続ける現代アーティスト。 
日常の様々な要素を重ね合わせることで生まれる発見にときめきを感じ、それを作品の源に。その独自の世界観は、国内外での個展をはじめ、書籍の装丁や広告ビジュアル、プロダクトデザインなど幅広い分野で展開されている。 

星 恵(ほし めぐみ)

ヘアメイクアーティスト。文化女子短期大学生活造形学科を卒業し、デザイン事務所に勤務。出産後はアパレル業界へ転身。2015年クッポグラフィー入社。着物の着付けも担当しながら撮影に入る中、よりクッポグラフィーのコンセプトにあった着物を取り入れられないかを模索。以降、9年に渡りオリジナルの着物制作を担当している。


「アートをまとう」という選択——再び井上さんに託した理由 

(写真)2022年の井上さんとのコラボレーション着物

「実は、井上さんとのコラボレーションは今回で2度目なんです」と語るのは、クッポグラフィーの衣装監修を担当する星。

初めてタッグを組んだのは2022年。当時も大きな反響があり、井上さんの手がけた着物は、子どもたちにもご家族にも大変人気だったといいます。 

 

星:その後も井上さんの作品を拝見していて、配色や構図、雰囲気に新たな魅力を感じて。スタッフの間でも“今ならまた違ったものが生まれるのでは?”と話していたんです。そこで改めてお声がけさせていただきました。

当時に比べ、クッポグラフィー側の着物づくりにもノウハウが蓄積されていました。 子どもの動きや撮影時の光、空間の雰囲気に合わせて、どのような色や模様がより子どもを引き立たせるのか。 実際の現場で得てきた感覚をもとに、より自由に、より遊び心のあるチャレンジができる土壌が整っていたのです。 

星:子どもたちの自由な発想やふとしたしぐさって、私たち大人には思いつかないような動きや、表情があるんですよね。そういう姿が自然と出てくることこそ、クッポグラフィーの七五三撮影で大切にしていること。今回は、その“自由な感性”に寄り添う着物を目指しました。まるでアートのように、着ることで子どもたちの内なる創造性が引き出されるような、そんなシリーズにしたかったんです。 

 

開放的なスタジオ空間の中でアートな一着をまとった子どもたちが、その子らしく自由に過ごす。そんな風景が浮かぶような着物が、今回かたちになりました。 

平面に、質感と奥行きを——まるで「着るアート」が出来上がるまで 


コラージュを専門とする井上さんにとって、今回の制作は「着物」という新たな表現の場。 
普段の作品づくりとは異なる点がいくつもあったといいます。 

 

井上さん:一枚のコラージュ作品と違って、着物はパターンが繰り返されるデザインになります。だからこそ、どの部分を切り取ってもバランスよく見えるように、形や色を散りばめながら構成を考えました。余白を活かすというより、“ぎゅっと詰め込む”ような感覚でしたね。

(写真)3歳着物 デザイン原画

(写真)5歳着物 デザイン原画

(写真)3歳着物 デザイン原画

(写真)7歳着物 デザイン原画


さらに井上さんが意識したのは、“質感”の表現。 
布という平面に、どこまで奥行きやテクスチャーを出せるか——それが今回の大きな挑戦だったといいます。 

 
井上さん:手でちぎった紙や、さまざまな質感の素材を重ねたりすることで、あえて少しざらっとした、滲み、かすれのような部分も残して。そうすることで、印刷された時にも奥行きが生まれてくるんです。

このアートを着物として仕上げていく過程で、大切な橋渡しを担ったのが星でした。
原画を着物のかたちに落とし込む際には、顔まわりの色味や、着たときにどの柄が見えるかなど、実際の着用シーンも細かく想定する必要があります。

星:井上さんからいただいた原画をもとに、色の出し方や柄の出方をシミュレーションしていきました。たとえば、明るい色は顔まわりに配置することで、子どもたちの表情がより引き立つようにしたり。動いたときにちらっと柄が見えるように、裾や袖の位置も工夫しています。

その工程は、まさに“リ・コラージュ”。
一度完成した作品を、もう一度着物として組み直すような感覚だったといいます。

井上さん:最初にデザインデータをお渡しした時には、どんな風に仕上がるのかドキドキでした。でも、実際の着物を見て“これはすごい!”と思いました。パターンのバランスも発色も、本当に見事ですね。

こうして、アートピースのような佇まいで自由な感性が映し出された着物が、時間をかけて丁寧に仕上がっていきました。


3・5・7、それぞれの「今」を描く——数字に込めたテーマ 


今回の着物シリーズには、3歳・5歳・7歳、それぞれの年齢をテーマにした3つのデザインが用意されています。よく見ると数字が隠れていたり、色や形に意味が込められていたり。一見、抽象的な模様のなかに、それぞれの「今」がやさしく織り込まれています。 

 


3歳のテーマは「3-year-old dances」 

まだ物心がつく前の時期だからこそ、日々の暮らしが笑顔で満ちていてほしい。そんな願いを込めて、数字の“3”が踊っているようなデザインになっています。 

 

井上さん:キャッキャとはしゃいだり、走り回ったりする姿って、3歳の子どもらしさそのもの。クッポグラフィーの撮影風景を思い浮かべながら、その楽しさを模様に落とし込みました。


5歳のテーマは「looking for 5」 

好奇心いっぱいの5歳には、自分で発見する楽しさを感じてほしいという思いから、模様の中に“5”をひっそりと忍ばせています。 

 

井上さん:5は、よく見ないと気付かないかもしれません。あえて目立たせず、子どもたちが“これ、5かな?”と探す時間を楽しめるようにデザインしました。少し大人らしさも出てくる年齢でもあるので、色味も落ち着いたブルーグレーを基調にしています。 

 


7歳のテーマは「willingness of 7-year-old」 

周囲との関わりが増え、少しずつ自分の意志や好みがはっきりしてくる時期。その力強さや自信を、色と形で表現しました。 

 

井上さん:7歳くらいになると、自分の“好き”がはっきりしてきて、自分で着物を選ぶ子も出てきます。だからこそ、自分らしく“これがいい!”と選びたくなるようなデザインにしたいと思いました。カラフルな“7”のモチーフには、そんな意志の強さを込めています。 


実は、数字はすべてアラビア数字だけでなく、漢数字も織り交ぜてデザインされています。ぱっと見ただけでは気付きにくい部分もありますが、だからこそ、見つけたときの喜びがある。そうした“発見の楽しさ”も、着物の一部として大切にしています。 


星:今回の着物には、コラージュアーティスト・井上陽子さんの自由な発想が込められています。きっと、子どもたちが“これ、なんだろう?”と想像を巡らせながら、着物を楽しんでくれるんじゃないかと思っています。デザインの感性に触れながら、自分の中にある自由な気持ちや、まっすぐな思いにも気付いてもらえたら嬉しいです。 

 

遊び心とやさしさが込められた着物には、それぞれの年齢の“今”を愛おしみ、未来にそっと願いを託すような温かな眼差しが宿っています。 

 

 

続く後編では、アートとしての「コラージュ」の魅力と井上さんの日々の創作の源についてお聞きしました。 

後編はこちら 


インタビュー日:2025年7月

取材・文 鈴木美穂

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